昔の石加工品といえば、古い物ほど風化してボロボロというイメージが強いと思います。
「150年前に刻まれた文字でさえ読めなくなっている、ということは今刻む文字も150年後には読めなくなっているのか」と思われている方が多くおられるようです。
風化の問題は大きく2つの原因が関係しています。
1つは、石の質の問題です。
軟質な石は、加工がしやすく比較的容易に加工が出来ます。
文字彫りという場合、非常に細かな精密な仕事を要求されますので、あえて加工しやすく美しく仕上がる軟石を使っている場合があります。その反面、軟質な石は風化しやすく、また吸水性が高いこともあって年数が経つと風化による劣化がすすみます。
さらに輸送手段が今より未熟であった昔は、地産地消の感じで近くの石を使うのが当たり前でした。
その地元石が軟質であれば風化に対して弱いのは仕方がない事となります。
やはり硬い石に比べて軟らかい石は風化が早いといえます。
2つめは、加工工程によるものです。
昭和30年代後半から切削機械など石を切ってしまえる工具ができてきました。
この機械の普及によって石の加工が飛躍的に向上しています。
それ以前の石の加工といえば、割る、(石ノミで)叩く、(鎚で)叩き整える、(砥石で)擦るという作業でした。
石は与えられた衝撃を憶えています。
(正確には、衝撃によってある程度の組織の結合が壊されているのでしょう。)
最終的に綺麗な平面となっていても、その過程で叩かれているその衝撃部が、長年の風雨、給排水によって劣化して剥げ落ちます。
これら2つの要因によって、大昔の石は今となっては激しく劣化しています。
しかし近代では、輸送手段が発達したため石の質の底辺が底上げされており、さらに加工において機械による切削を経ていれば、彫った文字が読めなくなるほどの劣化は、よほど先になります。
現在の汎用質の石と工法で彫られた文字は150年ほどで読めなくなることはあまり無いでしょう。
墓石で言えば、上質硬質な石で大きめに彫った文字は、おそらく1000年経ってもしっかり読めます